「遠く宿縁を慶ぶ」
このたびは相愛大学へのご入学、誠におめでとうございます。みなさんの入学を心から歓迎いたします。
鎌倉時代を生きた親鸞聖人という念仏者は、「遠く宿縁を慶べ」との言葉を書き遺しています。「はるか過去世からのご縁を慶びましょう」といった意味です。めったに出遇えない仏法との遭遇をおっしゃっているのですが、今回私たちが本学で共に学び、共に過ごすこととなった縁も、同じような慶びであると受けとめたいと思います。
もちろんみなさんには、「たまたまここへ来た」「自分自身の実力でここへ来た」といった思いもあるでしょう。と同時に、さまざまな縁によって「何かに呼ばれてここへ来た」という面があることを感じてください。網の目のようにつながった縁に思いをはせて、それを慶ぶ気持ちを大切にしてください。
相愛学園は130年以上の歴史をもつ学校です。これから始まる本学での日々を通して、歴史によって熟成されてきた学風を身と心に染み込ませてもらいたいと願っております。必ず新しい世界が開け、生きる上でとても大切なことを備えることができるはずです。
ところで、内閣府が2019年に発表した『子ども・若者白書』の中で、「今を生きる若者の意識―国際比較からみえてくるもの―」という調査結果があります。世界各国の若者の意識を比較調査したものです。その中で目につく項目がありました。日本の若者は、諸外国に比べて「自分が特別な存在である」などの自己肯定感に関わる項目の数値がすごく低いのです。つまり日本の若者は自己評価が国際比較で最低水準だったわけです。また、「他者の眼が気になる」という項目は、他国よりも数値がとても高い結果となりました。
この傾向は、ある意味で現代社会を生きる若者の生存戦略なのかもしれません。自己評価と他者評価がズレれば、苦しむことになります。だから、無意識的に自己評価を下げることで社会適応している人もいるのではないかと思います。
ただ、他者評価に振り回されている限り、いつまでたっても自分の人生の主人公になれません。自分の人生なのに、他者の価値基準で生きていては、人生の主人公とはいえません。昔、中国に瑞巌和尚というお坊さんがいたのですが、この人は毎朝自分自身に「おい、主人公」と呼びかけ、「はい」と自分で返事していたそうです。さらに、「しっかり目を覚ましているか」「はい」。「他人に振り回されるな」「はい」。そんな自問自答を毎日していたと言います。毎日毎日、自分が自分の人生の主人公であることを確認していたわけです。
ぜひ、しっかりと人生の主人公になるためのフォーム(基本姿勢)を、この大学で構築してください。
大学というのは、その気になればとても使い出があります。何もしなければ、大学というのはつまらないところです。あまり積極的にいろいろ配慮してくれません。しかし、使う気になれば汲めど尽きぬ水量をもっています。大学のポテンシャルを引き出すのは、大学を活用するみなさん自身です。
みなさんの大学生活が充実したものとなることを心から願いまして、お祝いの言葉とさせていただきます。あらためまして、ご入学おめでとうございます。
学長 釈 徹宗