2022.04.21
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学長メッセージ

学長メッセージ(その1)

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「学び続ける勇気と喜び」

 不定期ではありますが、これから「学長メッセージ」を発信していきます。今回は(その1)です。どうぞよろしくお願いします。

ロシアの軍事侵攻によるウクライナの情勢は、みなさん心を痛めていることでしょう。もちろん、現在大きな苦労を強いられているのはウクライナだけではありません。ミャンマー、アフガニスタン、シリア、パレスチナ、チベット、新疆ウイグルなど、いずれも状況が好転するような兆しがありません。少し首を伸ばして見渡せば、実に悲しい現実があちこちから突きつけられます。特に今回は、世界のパワーバランスや理念・方向性が大きく変わる可能性をはらんだ事態だけに、日本での関心も高くなっています。

このような世界の状況に対して、「今、自分にできることはなにか」といった強い問題意識をもっている人も少なくないに違いありません。実際に行動を起こしている人も数多くおられます。私も微力ながらご縁のある方面へと支援活動を続けたいと思います。

さて、教育の領域に身を置く者として、(その1)では「どのような時も学ぼうとする姿勢を大事にする」ことをお伝えしようと思います。この姿勢は世界を良い方向へと導く道でもあります。

浦沢直樹さんの作品に『マスターキートン』という漫画があります。なかなかの名作ですので、ぜひ読んでください。主人公のキートンは考古学者と軍人の教官と保険調査員の顔を持つ男で、さまざまな事件や問題を解決していきます。全話中の多くは一話完結になっているのですが、その中で「屋根の下の巴里」という回があります。この回にはキートンをオックスフォード大学で指導したユーリ・スコット教授の話が描かれています。この人は小柄できゃしゃで非力な学者ながら、本物の勇気と胆力を身に備えているんです。第二次世界大戦時、ユーリ先生は週に一度、ロンドンの社会人大学で教えていました。そこに大空襲が起こります。ユーリ先生は学生たちと救助活動にあたり、可能な限りの人を助けた後、汚れで真っ黒な姿のままテキストを取り出して「さあ諸君、授業を始めよう。あと15分はある」と講義の続きを始めるんです。ユーリ先生は、「決して学ぶのをやめてはいけない。それこそが本当にこの国をダメにしてしまうことだ。今こそ学び続ける勇気を見せる時だ」ということを示したのです(←この通りの記述があるわけではなく、かなり私の脳内で変換された表現です、すみません......)。

 ユーリ先生の薫陶を受けたキートンは、学び続ける勇気を身に備え、人間にとって学ぶことの意味を他者へと伝えるようになります。

 この作品に描かれているように、学ぶ喜びは人類にとって根源的なものでしょう。学び続けることで、次々と行く手のドアが開き、少し小高いビューポイントに立つことができます。人生において、見える光景が変わってきます。

 世界をより良い方向へと進めていくために、ニセ情報や陰謀論や煽情的なメッセージで足元をすくわれないために、巨大な暴力で尊厳を踏みにじられないために、学び続けていきましょう。

学長 釈 徹宗