先日、仏教系保育連盟の全国大会でお話をして来ました。私は保育や幼児教育については何の知識もないので、そんなヤツの話を長時間も聞かされる専門職の方々には実に申し訳なかったと思います。ただ私は、さっぱり知識は無いものの、日本の保育・幼児教育がどれほど素晴らしいのかは知っているのです。
かつてNGOの導きでパレスチナ難民キャンプを回ったことがありました。その時、パレスチナの保育園や幼稚園も見学したんです。なんと、絵本の読み聞かせや、お歌やお遊戯、リズム遊びなど、日本の保育園や幼稚園の光景そのままではありませんか。それもそのはず、NGOの活動によって、パレスチナにおいて日本の保育や幼児教育が実践されているのです。
現地の人たちにお話を聞くと、日本の保育や幼児教育の効果はとても大きく、難民キャンプ暮らしという過度なストレス状態におかれている子どもたちの成長を助けているそうです。子どもたちが安定することによって、コミュニティも穏やかな方向へ向かったと言います。私たちが当たり前と思いがちな「読み聞かせ、お歌やお遊戯、リズム遊び」などは、決して当たり前じゃないんですね。ごく一般的に世界中どこでもやっている、というわけじゃないんですよ。長い間かけて、練り上げられた見事な幼保の理念と技術の結晶なんです。
などといったお話をしました(他にもいろいろしゃべった)。
さて、それではお勧めの絵本をひとつご紹介しましょう。
メレディス・フーパー『ハニービスケットの作り方』です。
(1) おばあちゃんがハニービスケットを作るというので、孫のベンは手伝うことにしました。
ベンはおばあちゃんが作るハニービスケットが大好きなんです。
ベン:「おばあちゃん、ハニービスケットを作るには何がいるの?」
おばあちゃん:「そうね、まず牝牛を1頭。それにたくさんの草」
ベン:「牝牛? 草?ハニービスケットを作るのに?」
おばあちゃん:「そう!牝牛が草をミルクに変えてくれるのよ」
(2) ミルクをぐるぐるかきまぜて、バターを作ります。ハニービスケットには、バターが120g必要なんです。
おばあちゃん:「それからさとうきびがいるわね。おさとうも120gいるのよ。はい、バターとさとうをボールでよくかきまぜて」
ベン:「それから何がいるの?」
おばあちゃん:「ミツバチ1,000びきいるわね。ハチミツがいるのよ。それからメンドリね。メンドリにえさをあげて
タマゴをうんでもらうの。はい、黄身と白身をわけて......。おっとっと。できたらかきまぜて」
ベン:「あとなにがいるの?」
おばあちゃん:「木の皮がいるわね」
ベン:「木の皮? そんなもの食べたくないよ!」
おばあちゃん:「シナモンっていう木の皮でかおりをつけるのよ。そしてだいじなのは、金色にかがやく小麦ばたけね。」
(3) おばあちゃんは、他にも「いい土と、あたたかいお日さまと、それに雨も。みどりの草ときれいな花たちも」と必要なものをお話します。
ベンは「ぼくのハニービスケットには、めうし1頭と、ミツバチが1000びきと、めんどりが1羽と、さとうきびの畑と、小麦の畑と
木の皮と......いるんだ」と実感しながら、ハニービスケットの生地をかたちづくり、オーブンで焼きます。
できたハニービスケットのおいしいこと!!
わかりやすいように若干書き換えていますが、大雑把に言うとこんな内容の絵本です。
良い絵本ですよね。この時のハニービスケットの美味しさは、決して他のものでは代替できない味でしょう。いわば、かけがえのなさを味わっているのです。
また、「ひとつの現象はいくつもの要素の集合体であり、ひとつひとつの要素も原因と結果によって織り上げられたものである」と読むならば、とても仏教的な絵本だと言えます。
「あすなろ書房」ホームページから
(追記)
今、パレスチナ(ガザ地区)は大変悲惨な状況になっています。目を背けたくなるニュース影像が毎日飛び込んできます。問題が大き過ぎて、なにひとつできない自分の無力さを思い知らされます。せめて、「私たちはこの事態を悲しみと怒りをもって見つめています」というメッセージをみんなで発し続けたいと考えています。
学長 釈 徹宗
2023年11月10日
◆過去の学長メッセージはこちら